「野菜炒めを残してほしい、という声があるんです。」
これ、いちばん迷うところですよね。せっかく言ってくださっているわけですから。
今回は、その声を聞かないと決めた回の話です。先に言っておくと、僕もお客様の声はいちばんいい情報だと思っています。思っているうえで、この場面では聞かないほうがいいと答えました。
声のとおりに残した一品が、店を止めていました
どういう条件の話なのかを先に書きます。観光地のラーメン店を、新しい業態として再スタートさせるという相談でした。条件は「人を減らす」こと。いまいる人数の半分以下で回す前提で、メニューを組み直す必要がありました。
鍋を振るメニューは、1人しか触れません
まず、どこで詰まっているのかを見ました。ボトルネックは、鍋を振るメニューでした。
鍋は1人しか触れません。だから、同時に出せないんです。
これ、当たり前のようでいて、現場では見えにくいところなんですよね。鍋を振っている本人は忙しいので、詰まっている自覚があります。でも、店全体の数字を見ている側からは「一品ぶんの手間」にしか見えない。
シャキシャキを追求するほど、同時に出せなくなります
炒め物系は、美味しさを追求するほど回らなくなります。
シャキシャキに仕上げようとすると、一品ずつ作り替えることになる。まとめて作り置きができない料理だからです。
その場で、僕はこう申し上げました。
「今はかっこよく鍋でやってますけど、現実はバケツに移すんです。盛り付けて出てきたら一緒。どこかで割り切らないと、今の美味しいシャキシャキは追求できない」
美味しさの定義を、オペレーションのほうに寄せる。炒めなくていいように、あんかけをかけたら終わり、という形にしておく。
これ、料理人の方には嫌な話だと思います。自分がいちばん誇りにしているところを削れという話ですから。僕も、人に同じことを言われたら腹が立つと思います。
ただ、広い店舗で人数を重ねている大手なら、ちゃんと炒めて出せるんです。できているのは腕の差ではなく、厨房と客席の比率の差です。そこで張り合っても勝ち目がありません。
「鍋振りのほうが手が余っている」という報告
もうひとつ、現場から上がってきた話がありました。鍋を振るほうが、むしろ手が余っている、と。
これを聞いて「じゃあ大丈夫か」となりかけました。なりかけたところで、数字を見せてもらうことにしました。
なぜ、声とデータがずれるのか
じゃあ、なぜお客様の声とデータが食い違うのかって話ですよね?
お客様は、その場で欲しいものを言っているだけです
野菜炒めを残してほしい、という声は本物です。嘘をついているわけではありません。
ただ、お客様は店のオペレーションを知りません。その一品を残すために、ピークで何人が待つことになるのかも知らない。知る必要もありません。
「お客さんの声が一番いい情報だけど、これは聞いてはいけない情報なんです。だから野菜を外して正解」
聞いてはいけない情報、という言い方をしました。声を無視しろということではありません。この判断に使ってはいけない、ということです。
何を作るかを決めるときには、声はいちばんいい材料です。でも、何を捨てるかを決めるときには、声はほとんど役に立ちません。残してほしいという声は必ず出るからです。
観光地で食べたいのは、カロリーの高いものです
もうひとつ、場所の話があります。
「観光地は、カロリーの高いものを食べたいんですよ」
家族で旅行に来て、わざわざヘルシーなものを選ぶ人は多くありません。せっかく来たんだから、という気持ちで注文します。
つまり、野菜を残してほしいという声は出るけれど、実際に一番出ている品ではない。声の大きさと、注文の数は別なんですよね。
提供時間は、自己申告と実測で食い違います
そして、さっきの「鍋振りのほうが手が余っている」です。
「そんなわけないだろう」って報告が上がるんですよ。数字を見せてって言ったら全然違う。15分のはずが、実際は30分かかってる。
これは僕がその場で話した実感です。組織には、必ずこういう反論が出ます。悪意ではなく、本人はそう感じているんです。
だから、感じ方ではなく実測で見ます。カメラを置く。時間を測る。そのうえで「現実にできないでしょう」と数字で示す。
しんどい作業です。ここまでやると、求められる水準に耐えられずに辞める人も出ます。それを分かったうえでやるかどうかは、経営者が決めることです。
数字で決めて、絞って捌きます
じゃあ、実際に何を基準に切ったのかって話ですよね?
ピークで10人しか捌けない店を、絞って20人に
判断の軸は、これ1つに置きました。
「ピークで10人しか捌けないのを、絞って20人にしたほうがいい。数が減っても、ピークが捌ければ絶対に売上は上がるんです」
観光地は特にそうです。お客様が来る時間が集中するので、ピークで詰まるとそのまま機会損失になります。外で待っている人は、待たずに隣の店に行きますから。
僕は効果がないと考えています、という言い方をあまりしないほうですが、ここははっきりしています。品数を守ってピークで詰まる形に、伸びしろはありません。

品数が減っても、ピークが捌ければ売上は上がります
実際に決めたのは、こういう組み替えです。
- 鍋を振る炒め物系のラーメンは、カット候補にする
- ラーメンは味の違いが伝わりにくいので、2種類程度に絞る
- 餃子は焼く工程だけでどのみち残るので、そのまま残す
- チャーハンは人気なので専用で残し、バリエーションだけ足す
品数だけ見れば、明らかに減っています。そこでいつも聞かれるんですが、品数を減らして本当に売上は落ちないのでしょうか、と。落ちません。捌ける人数が倍になるからです。
一回のスーパープレーより、18ホール終わってミスがゼロに近いほうがいい。一品の完成度より、ピークの時間帯に何人に出せたか。見ている数字を、そちらに移すという話です。
仮説は、カメラと実測で裏を取ります
最後に、これだけは持ち帰っていただきたいことがあります。
現場からの自己申告は、そのまま経営判断の材料にしないでください。嘘をつかれているという意味ではありません。人は自分の作業時間を短く見積もるものだからです。
測ると、たいてい違います。そして、測った数字は誰も否定できません。「そんなわけないだろう」と言われても、記録が残っていれば話がそこで終わります。
お客様の声を聞くのをやめる、という話ではないんです。何を作るかは声で決めて、何を捨てるかは数字で決める。使う場面を分けるだけで、判断はずいぶん軽くなります。
