先日のRMMSの電話相談で、こんなご質問をいただきました。
「内発的動機を自分なりに調べてみたんです。自律性と、有能性と、関係性。3つあるじゃないですか。相手に自分で決めてもらうには、このうちどれを重視したらいいんでしょうか」
内発的動機というのは、ご褒美や叱られる怖さで動くのではなく、本人の中からやりたい気持ちが湧いて動く状態のことです。
ご自分なりに調べてこられたんですね。
「めっちゃ勉強してるじゃないですか」と、思わず言ってしまいました。
正直、おっちゃんびっくり状態です。
ただ、どれを重視すればいいかをお答えする前に、これらが何のためにあるのかからお話ししました。
ここを飛ばすと、3つの言葉を覚えても、明日の職場でどう使えばいいのかが分からないままになってしまうからです。
内発的動機づけの例。子どもが自分で玄関で支度をする朝、親は何をするべきか
ここでいちばん分かりやすいのは、子育ての例です。
これから家族でお出かけ、という朝を思い浮かべてください。
親は、子どもを押さえつけて靴を履かせたりはしませんよね。
「今日は赤い靴がいいの?白がいいの?」と聞いて、本人に選ばせます。
自分で選んだ靴なら、子どもは抵抗しません。
これが自律性、自分で決めるということです。

出かける時間が迫っているのに、たいてい子どもはトイレに行きたいとか言い出します。
なので親は先回りして、「先にトイレ行っとかなくていいの?」あるいは「お水飲んどく?」と声をかけます。
玄関を出たあとに足を止める理由を、先に一つずつ取り除いてあげているわけです。
本人ができる形を、横から支えているんですね。
そして「そろそろ靴下履いとこうか」「先に外でお母さんを待っとこうか」と続けます。
外で待っている間も、「楽しみやね」「今日はお花に虫がいてるね」と、一緒に楽しみます。
お父さんやきょうだいとも関わりながら、みんなで出かける時間を過ごす。
これが関係性です。
もちろんだだをこねる日もあります。
幼稚園の靴は嫌、今日はこっちの革靴がいい、と言い出す。
そんなときも、「今日は砂場に行くけど、どう?革靴が汚れたら傷だらけになるけど、どっちにする?」と聞いてみる。
すると子どもは「ほな、もう学校のやつでええわ」と、自分で決めて履き替えます。
子どもが自分で決めて、自分で玄関を出られるように、条件を整えているだけです。
相手が自分で決めて動ける状態をつくることを、広い意味でエンパワーメントといいます。
本人の力を引き出す、という意味の言葉です。
子育てでも、お客様でも、社員さんでも、人に前を向いて進んでもらうときは、全部この形で進めていくものなんですよね。
つい言ってしまう「早くしなさい」は、何が足りていないのか
とはいえ、実際ここまでうまくいきません。
たいていは「早くしなさい」とママが叫んでしまいます。
一日に何度も言っている、という方も多いと思います。
僕はこれを責めるつもりはまったくありません。
どこの家でもそうですし、子どもが何人もいたら、毎朝一つずつ選ばせる余裕なんてありませんよね。
親としてはやむを得ないですよね。
ただ、細かいことを言えば、「早くしなさい」は、どうすれば早くできるのかを示さないまま、遅いことだけを叱っている形になっています。
選ぶ場面もなく、トイレや水の段取りもなく、一緒に待つ人もいない。
条件は一つも整っていないのに、結果だけを求めているんです。
「黙って靴履け!」と言われた子どもは、たしかに靴は履くかもしれません。
でもそれは、自分で決めて履いたのではありません。
言っている親のほうも、しんどいですよね。
毎朝同じことを言って、疲れ果ててしまう。
これ、職場に置き換えて考えてみてください。
同じような一言を、社員さんに言っていないでしょうか。
もちろん言いたくなる気持ちは、本当によく分かります。
ただ、その一言の前に、本人の自己決定はあったか?手が止まる原因を先に取り除いてあったか?一緒に進む人がいたか?
そこを一度振り返ってみると、言い方より先に、準備するべき環境が見つかるはずです。
部下が自分から動かないとき、最初に疑ってしまうもの
電話相談では、続けてこんなご質問もいただきました。
「なかなか決められない人っていますよね。どうしたら、自分で決めてもらいやすくなるんでしょう」
まずお伝えしたのは、決められないことを、その人の性格やキャラクターとして見ると答えが出ない、ということです。
たとえば、話すのがゆっくりな人に、もう少しハキハキ早く話してほしいとします。
そこで「あの人はのっそりしてるからなあ」と言ってしまったら、もう話は終わりです。
性格は変えようがないので、打つ手がありません。
困ったまま、毎日同じところでイライラすることになります。
そうではなく、問題を分けて考えます。
話す前に考える時間がかかって辛いのなら、決まった答えのパターンを用意して、それを読んでもらう。
声が出にくいなら、発声の練習をしてもらう。
自分の声を録って聞いて、早口の人と比べて、どこを変えればいいかを本人に見つけてもらう。
こうやって細かく分けていくと、一つずつ本人にできる形で変更点を提供できます。
できる形がそろえば、話す速さは自然と上がっていきます。
決められない人も同じです。
決断を止めている原因が、どこかにあるはずなんです。
判断の材料が足りていないのか。
お金や時間を失うこと、失敗することの怖さを、うまく見積もれていないのか。
それとも、この決断が自分にふさわしいのかどうか、その情報が足りていないのか。
原因によって、こちらがやるべき支援はまるで違ってきます。
材料が足りない人に決断を急かしても、決められないものは決められません。
不安が大きい人にいくら判断材料を渡しても、背中は押せません。
だから、本人の人格のせいにせず、どの環境が欠けているかを一つ一つ分けて聞いていきます。
部下が自分から動かないときも、まず疑うのは性格ではなく、動くために欠けている条件のほうなんです。
内発的動機づけを高めるには、3つのうちどれから手をつけるか
ここで、最初のご質問に戻ります。
自律性・有能性・関係性のうち、どれを重視すればいいのか。
僕の答えは、何割ずつ、という話ではない、ということでした。
3つの条件がそろったら、内発的動機は湧いてきます。
こちらが高めようと押さなくても、本人の中から出てくるんです。
逆に言えば、動かないときは、どれかが欠けています。
自分で決定していないのか。
できるはずのことを、何かが妨げているのか。
一緒に進む人がいないのか。
欠けているところ、つまりボトルネックから整えていけば、それまで出てこなかった決断や行動が、ケチャップみたいにドバッと出てきます。
子育ての朝でいえば、子どもが自分から靴を履いて、外で待てるようになったら、条件は整ったということです。
社員さんやお客様が思うように動いてくれないとき、「早く」の一言をぐっとこらえて、何が欠けているのかを一つ探してみてください。
その一つが見つかった日から、相手の動きが変わり始めるはずです。
