僕はもともと、実家の畳屋を継いだ人間です。
なので「畳を替えたいんですけど」というお電話は、受ける側として何度も経験してきました。
畳屋の仕事は、たいていお客様からの連絡で始まります。
こちらから売り込みに行くのではなく、お客様のほうから声がかかって、お宅に伺う。
講座でも「僕たちだとお客さんから連絡があるから」と、畳屋の側に立ってお話ししました。
そのとき頼まれているのは、畳です。
「畳を替えたいです」と言われて、畳の見積もりのつもりで伺います。
依頼の中身としては、何も間違っていません。
頼まれたことをきちんとやる、真面目な仕事の仕方ですよね。

ただ、伺った先の和室を思い浮かべてみてください。
講座では、ここで一つずつ数えてみました。
「襖も替えてほしいじゃないですか」
「障子も張り替えてほしいじゃないですか」
「壁も塗り替えたいじゃないですか」
「意外と湿気も取らなきゃいけなかったりするし」
畳の依頼で上がったお部屋に、これだけのものが並んでいるわけです。
どれも同じお部屋で、畳と一緒に年月を重ねてきたものです。
住んでいるお客様にとっては、いずれ気になってくるものばかりなんですよね。
ざっくり全部を合わせると、200万円くらいの話になってもおかしくありません。
もちろん、お宅によって金額は違います。
それでも、畳の見積もりだけのつもりで伺った一件が、実はそのくらいの大きさを持っているかもしれない。
パッと見てそのゴールが見えているか、畳しか見ていないか。
講座では、ここで結果の差がすごく出る、とお伝えしました。
畳しか見ていなければ、畳の見積もりを出して、その一件は終わります。
次に襖が気になったとき、お客様がどこに電話をかけるかは分かりません。
せっかくお宅に上がらせていただいたのに、それはちょっと寂しいですよね。
誤解のないように言っておくと、襖も障子も壁も、その日に全部売ってきてくださいという話ではありません。
畳を替えたいと呼ばれて、いきなり200万円の話を始めたら、お客様は引いてしまいます。
講座でも「その当日売らなくても、5年間の200万でいいじゃないですか」とお話ししました。
今回は畳を替えて、その先で襖や障子のこと、壁や湿気のことも、そのつど相談に乗っていく。
5年かけて、そのお宅とそこまでお付き合いしていければいいんです。
僕がお伝えしたかったのは、最後にここまでお付き合いできるな、と先にイメージしておくことです。
そう描いてからお宅に上がると、同じ和室でも見え方が全く変わります。
畳だけを見ていたときには素通りしていた襖や障子や壁が、ちゃんと目に入ってくるんです。
しかもこれは、お宅に上がってから考えることではありません。
お電話をいただいた時点で、もう始まっています。
伺って、お話しして、対面でご契約のサインをいただくまで、全部がひと続きの工程です。
玄関を入ってから慌てて考えても、見る範囲はなかなか広がりません。
だから、伺う前にそのお部屋の5年先を描いておくんです。
次に「畳を替えたい」とお電話をいただいたら、ぜひ受話器を置いたところで一度、そのお部屋を思い浮かべてみてください。
