「親父が代を譲ってくれない」
「親父が代を譲ってくれない」——その経営者の口癖でした。
さまざまな勉強会に参加し、コンサルの指導も受けた。父親と息子で、一緒に学びに行ったこともある。それでも父親は、代を譲りませんでした。
息子側からすると「親父は代を譲ってくれない」としか見えません。でも父親側から見たら、話はまるで違います。息子が頼りなくて、金庫の鍵を預けられない。これまでどれだけ勉強会に行っても、コンサルに見てもらっても、「この子なら任せられる」と思える瞬間が、来なかったのです。
私が訪問した理由
私は、その会社を訪問し、父親と1時間話しました。
何を話したか。具体的なやり取りの詳細は公開していませんが、核心はこうです。
私自身、畳店の4代目として事業を継いでいます。入社してスムーズに金庫の鍵を受け取った側の人間です。面倒な管理業務を自然と肩代わりするようになり、気づけば実質的な経営を握っていました。番頭として管理を徹底し、結果を出すうちに、父親が手放せるようになった。
その父親が、これまでの仲間やコンサルに託せなかったものを、私の実績とやり方に見て、「この人なら息子をしっかりさせてくれるのではないか」と期待したのです。
帳簿が手渡された瞬間
1時間の会話の後、父親は帳簿一式を私に手渡しました。
「これを息子に渡して下さい。息子を、よろしくお願いします」
帳簿を渡すということは、金庫の鍵を渡すことと同じです。何年もかけて勉強会やコンサルで解決しなかった問題が、1時間で動いたのです。
ただし「1時間で解決した」のではありません。それまでの私の実績、その経営者自身の努力、父親が何年も悩み続けた蓄積——その全てが揃った上での、1時間でした。
最初の1年間
帳簿を受け取ってからが、本当の勝負でした。
その経営者は最初の1年間、徹夜が続きました。ベッドまでたどり着けず、1階のソファーで寝ていた。代を譲ってもらった瞬間に、すべてが解決するわけではありません。そこからが、本番です。
今までいた職人さんが抜け、さらに苦労は絶えませんでした。それでも社員を迎え、事務員さんを雇い、ようやく安定してきた。経営者として、円熟の時期に入っていきました。
事業承継の二つのパターン
RMMSの会員には、事業承継で先代と対立し、関係が壊滅的な状態から再構築した方もいます。父親と「殺してやる」と罵り合うほどの激しい対立から、合宿をきっかけに少しずつ関係を変えていったケースです。
この経営者のケースは、違います。激しい対立ではなく、じわじわと「譲れない」状態が続いていた。父親は、息子を嫌っていたわけではありません。ただ、安心できなかったのです。
激しく対立している場合は「自分が変わる」ことで関係が動く。この経営者のように静かに膠着している場合は「第三者が間に入る」ことで動く。ルートは違いますが、どちらも、一人では解決しませんでした。
「仲間」が事業承継を動かす
人は、いきなり一人前にはなりません。成長のプロセスを促してくれる、単なる仲良しではない本当の仲間がいれば、周りも安心します。
その父親が帳簿を託したのは、私個人の力量だけではなく、「この環境の中にいれば、息子は成長できる」と確信したからです。
仲が良いという意味での仲間は、できない言い訳を慰め合うだけ。事態は何も進みません。批判し合える、お互いのダメなところを言い合える方の仲間なら、そうはなりません。RMMSには、その環境があります。
これがRMMSの事業承継支援の本質です。コンサルのように外から助言するのではなく、仲間として中に入る。
勉強会に一緒に行くのでもなく、日常の経営に伴走する。その違いが、何年も動かなかった事業承継を、動かしました。
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