「原稿が何度も戻ってくるのは、僕に文章のセンスがないからでしょうか?」
添削のやり取りをしていると、こういう相談をよく受けます。
ご本人は真剣に落ち込んでおられるんですが、僕から見るとセンスの問題であることはほとんどありません。
今回はその理由をお話しします。
RMMSでは、会員さんが書いたチラシやハガキやホームページの原稿を僕が読んで、直すところをお返しする、というやり取りを毎日のように続けています。
先日、その返事を14年分、2,375件調べる機会がありました。
自分でも驚いたんですが、業種によってどこで詰まるかに、はっきり傾向が出るんです。
その中でも一番くっきり出たのが、治療院の先生の原稿でした。
一つ例をお見せします。
ある治療院の先生が、患者様の声の原稿を出してこられました。
内容は「施術を受けて正しい姿勢に戻ったら、肩こりが取れた」というものです。
先生としては自信のある原稿だったと思います。
実際に患者様が喜んでくださったわけですし、施術の理屈としても間違っていません。

で、僕が返した言葉がこれです。
「正しい姿勢って何? この人の悩みな痛みとどんな関係があるんですか?」
そして、
「姿勢良くなったら悩みが取れるなら、家で姿勢良く座ってたら肩こり治るってことですよね。整骨院いらんやん!」
ちょっと意地悪に聞こえますよね。
でも、先生を責めているわけじゃないんです。
この原稿を読むのは、肩がこって困っている人です。
その人が読んだときに頭に浮かぶ疑問を、そのまま先生にお返ししただけなんです。
先生の頭の中では、姿勢と肩こりの関係は説明するまでもない話です。
毎日その理屈で施術をしておられるわけですから。
だから原稿でも「正しい姿勢に戻ったら肩こりが取れた」と、一番大事なところが一行で片付いてしまう。
ところが読む側は、そもそも姿勢と肩こりがつながっているなんて知りません。
知らないから「じゃあ家で背筋を伸ばしてればいいの?」という、先生からしたら困った受け取り方になってしまうんです。
そうなんです。
専門を持つと、自分には当たり前になったことが原稿から抜けるんです。
知らないから抜けるんじゃありません。
知りすぎていて、書く必要を感じなくなるから抜けるんです。
これ、能力の問題でも性格の問題でもありません。
専門を深めれば深めるほど、必ず起きることです。
むしろ腕のいい先生ほど当たり前の範囲が広いので、抜ける量も多くなります。
勉強熱心な人がかえって損をする構造なんですよね。
実際に調べてみると、「読む人に要る説明が入っていませんよ」と僕がお伝えしている回数は、治療院の先生が畳店さんの2倍でした。
ハガキならハガキ同士、チラシならチラシ同士で比べても同じでした。
媒体の違いではなく、専門の深さの違いなんです。
では畳店さんは詰まらないのかというと、そんなことはありません。
詰まる場所が違うだけです。
畳店さんの原稿で僕がお伝えすることが多いのは、文章の中身より、写真や色やレイアウトといった見た目の方です。
それと、原稿を出してこられるときに「これでいいでしょうか?」と、良し悪しの判断ごと僕に預けてこられる方が目立ちます。
これも同じ仕組みだと僕は見ています。
畳の良し悪しは、畳店さんなら見た瞬間に分かります。
分かりすぎているので、畳を見慣れていない人に何をどう見せたら伝わるのかが、かえって決められない。
治療院の先生は当たり前が文章の中から抜け、畳店さんは当たり前が見せ方の手前で止まる。
形は違いますが、起きていることは一つです。
自分がよく知っていることほど、相手が何を知りたいかが見えなくなる。
だから、原稿が戻ってきたときに「自分は文章が下手だ」と落ち込む必要はないんです。
むしろそこまで専門を深めてきた証拠なんですから、ちょっと誇ってもいいぐらいです!
では、どうしたらいいのでしょう?
自分の当たり前を全部書き出す、というのは無理です。
当たり前だから自分には見えないわけですから。
僕がおすすめしているのは、相手が実際に口にした言葉から書き始めることです。
「肩がこって、夜も眠れないんです」
「この畳、まだ使えますか?」
お客様や患者様が実際に口にした言葉には、その人が知りたいことがそのまま入っています。
その言葉を原稿の頭に置いて、それに答える形で書いていく。
すると、自分の当たり前で埋めていた部分が「あ、ここ説明してないな」と見えてきます。
逆に専門用語から書き始めると、その瞬間に相手の疑問が原稿から消えてしまいます。
先ほどの「正しい姿勢」が、まさにそれでした。
とはいえ、自分の当たり前は自分では見えません。
「見えないところを見る」のが、他人の目の仕事です。
僕の添削が14年やってきたことは、突き詰めるとその一点なんですよね。
自分の原稿のどこが当たり前で埋まっているのか見当がつかない、という方は、RMMSの電話相談か問題解決ワークで原稿をお持ちください。肩こりで困っている人の目、畳替えを考えている人の目で読んで、「ここが分かりません」とお返しします。

