仕事の引き継ぎというと、まず引き継ぎ書を思い浮かべる方が多いと思います。
手順や取引先、締め切りといったことなら、紙に書いて渡せます。
今回はそちらの話ではなくて、紙に書こうとしても言葉が出てこない部分のお話です。
自分では当たり前にやっていることなのに、いざ説明しようとすると「まあ、その場の感じで」としか言えない。
どこで待つのか、どこまで言うのか、そのさじ加減を何度説明しても、後任の方には伝わった手応えがない。
説明する方も、聞く方も、だんだんしんどくなってきますよね。
僕にも、ある面談のやり方を覚えていただくのに、どうするか迷った日がありました。
仕事の引き継ぎのコツで僕が迷った、ある面談のやり方
僕が伴走している相談者の方と、事業の目標を画面越しに話していた日のことです。
ご自身の事業を持っておられる方で、その方に僕の面談のやり方を覚えていただく必要が出てきました。
言葉にしにくいやり方をどう覚えていただくか、というのは、仕事の引き継ぎと同じ困りごとです。
話している様子は、録画にも残っていました。
その画面に出していたのが、フューチャーマッピングの図です。
神田昌典先生が開発された手法で、僕はそのファシリテーターをしています。
1枚の図に書き込みながら、こうなっていたら最高だという状態を、ご本人に言葉にしていただきます。
この面談では、その言葉を答えと呼んでいます。
面談と目標設定の技術で、言うのも決めるのもご本人です。

で、なぜ覚えていただく必要があったのか。
この方は、ご自身のお客様を指導する仕組みをこれから作っていくところでした。
そのためには、フューチャーマッピングの実演をサンプルに、他の方にも指導できるマインドを持っていただく必要がありました。
仕組みを作ることだけをお願いしても、うまくいくとは思えませんでした。
「だって指導システム作ってねって言って、ほったらかしてももう無理じゃない。終わっちゃうじゃないですか」
その日の面談を指して、僕はこうもお伝えしています。
「自分で言ってもらって、自分で目標設定したことで、自分でやらなきゃなって思ってるでしょ」
図に書いてあるのは、全部ご本人の言葉です。
「自分で決めていたわけですよね」と確かめられたので、こう続けました。
「そう自分で決めてもらえて、ブレがないように持っていける技術なんです。僕が使ってるのはフューチャーマッピングって言うんですけど」
話は、ご自身のお客様との関わりのことにもなりました。
そこで、なぜこのマインドが必要なのかもお伝えしました。
「とにかくこの面談技法ができないと、いつまでたってもお客さんのあれしたりこれしたり振り回されるので」
お客様に振り回される毎日が続くのは、しんどいですよね。
そのうえで、もう一言。
「これがあったら絶対に振り回されないんですよ」
図は別の方法で構いません、ともお伝えしました。
道具のことは後の問題で、まずは面談のやり方を使えるようになっていただきたかったんです。
ここまで口で説明したうえで、さて、これをどう覚えていただくか、という話になりました。
仕事を見て覚えていただく前に、先にお伝えした一言
その場で僕は、迷っていることをそのまま口にしていました。
「これを覚えてもらうのにどうするか、もう一枚今から作るのか、ちょっと迷ってます」
もう一枚というのは、指導の仕組みを答えにして、同じ図をもう1枚作る、という話です。
時間を確かめると、その日はまだ余裕がありそうでした。
そこでいったん区切って、同じ日にもう一度時間を取ることにしました。
その間についてお伝えしたのが、こちらです。
「一回ここまでのビデオを送るんで、余裕があったら見てください」
手本用に別に撮った録画ではありません。
ついさっきまでご本人が受けていた面談そのものです。
面談を受けている最中は、ご自身の目標を考えるので手一杯だと思います。
僕がどこで何をしているかを眺めている余裕は、まずありません。
一方で録画なら、どんな答えを出したのかをもう知っている状態で、聞き直していただけます。
「これ改めて答えから聞いたら、僕がどうやって設定してて、余計なことあんまり言わんようにしてるかを、わかってもらえると思うんですよ」
仕事を見て覚える、というやり方は昔からあります。
ただ、この録画については、どこを見ればいいのかだけは先に言っておきたかったんです。
「話してることを否定しないようにしてるところとかを、見てほしいんです」
何も添えずに録画だけ送っていたら、ご自身の話の中身を聞き直して終わっていたかもしれません。
この一言を添えたのは、僕があえて話を止めていないところにも目を向けてほしかったからです。
教えたほうが早い場面で、僕が口をつぐんでいるわけ
正直に言うと、言いたくなるんです。
話を聞いていて、こうしたらいいのにと思うことは、もちろんあります。
面談の外の食事の席なら話は別で、僕は何度でも喋ります。
それについては、こう言いました。
「焼肉食べてたら僕何度でも喋るじゃないですか。あれって相手のためにならないんですよ。自分で決めたことじゃないから」
面談の中でも、言いたくなるのは同じです。
「僕この仕事してるから、分かってないな、こうやでって言った方が早かったりするんですけど、それは何にも相手のためにならないんで」
「分かってないな」は、面談の最中に僕の中に出てくる言葉です。
言ってしまえば、その場の話は早く進みます。
でも「こうやで」と言った瞬間に、その目標は僕が決めた目標になってしまいます。
せっかく「自分でやらなきゃな」と思っていただけた気持ちまで、そこで薄れてしまうんです。
できていると胸を張れる話ではなくて、言いたいのをこらえながらやっている、というのが本当のところです。
録画を見た方の感想を聞いて、仕事の引き継ぎで考えたこと
その日のうちに時間を取り直して、続きをやりました。
始めてすぐに「大体見てみてどうですか」とお聞きすると、こう話してくださいました。
「誘導はしていただけるんですけど、答えを出すのは本人、自分自身で出していってるなというのと、喋ってる間に色々答えが変わってくるっていう、けどなんかちょっと外れたこと僕が言った時にまた、いや目的は何でしたかみたいな、ここについてはどう思いますかっていう、道筋を作っていただいているなみたいな感じはします」
誘導、道筋。
どちらも、録画を見たあとにご本人から出てきた言葉です。
「答えを出すのは本人」というところは、面談の中でお伝えした、自分で決めていただくという話に重なります。
その話を受けて、僕はこう言いました。
「だって自分が作ったゴールだから、ゴール何でしたっけって聞かれたら、もう答えしかないんで」
そのあと、指導の仕組みを答えにした図を書きました。
「まず概念として使えるようになってほしいんですよ」とお伝えしたのは、この日のことです。
このマインドを持てるようになっていただくのは、この日から先の話でした。
社員さんや後任の方に仕事の引き継ぎをするときも、同じようにできるのではないかと思います。
面談や指導のように、録画や録音が残せる仕事なら、ご本人が受けた場面を見返していただけます。
何度説明してもコツが伝わらないと感じているなら、ひととおり説明したうえで、その録画や録音に「ここを見てください」と一言添えて送ってみてください。
手元に無ければ、録るところから始めてみてください。お客様が映る場面なら、了解をいただいたうえで。
そして見終わったころに、「見てみてどうでしたか」と聞いてみてください。
