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中身は悪くないのに選ばれない、と感じている飲食の経営者の方へ。

売れるメニューのネーミング ― 中身の説明をやめると、同じ一皿でも票が動きます

将棋の大会に出す食事を、写真でエントリーして、見た人の投票で順位が決まる。そういう催しに何を出すかを考えた回がありました。最後にいじったのは中身ではなく、名前です。誰に選ばせるか、何を乗せるか、なんという名前にするか。その順番で書きます。

星の付いたカードを掲げ、もう1枚のカードを下げて持つ人物のイラスト

「名前を変えたくらいで売れるわけがない」

味は悪くない。値段も相場から外れていない。それなのに、並んでいる中から自分のところだけ選ばれない。そういう状態のときに名前の話を持ち出すと、大体この顔をされます。

そのとおりです。名前だけ変えて中身が伴わなければ、一回売れて終わりです。ただ、選ぶ人の手が動くかどうかは、中身の良し悪しより先に、名前の段階で決まってしまうことがあるんです。

これは、RMMSの問題解決ワークで実際に出た相談の話です。ある飲食事業者の方が、将棋の大会に出す食事を考えていました。催し自体はもう終わっているので、当日その場で出たアイデアとして紹介します。

前提を一つ置かせてください。この大会のエントリーは、料理そのものではなく写真でした。出品された写真を見た人が投票して、その票数で順位が決まる形式です。つまり、食べてもらう前に勝負が終わっているんです。だからこの回の判断基準は、うまいかどうかではなく、票が動くかどうかになりました。

僕は料理人ではありません。エビカツカレーの作り方なんて一つも知りません。ネーミングにしても、どこかで仕入れてきた目新しい理論を持ってきたわけではなくて、以前に別の店で実際に試して効いたことを、もう一度出しているだけです。

で、その場で決めたのは三つです。

  • 誰に選ばせるのかを決める
  • 単価が上がっても来る一品を乗せる
  • 票が動く名前をつける

順番にお話ししますね。

まず、誰に選ばせるのかを決めました

投票するのは、将棋を指しに来た若い子です

僕が最初に確認したのは、その日その場所にいるのは誰か、ということです。将棋の大会ですから、集まってくるのは指す側の人たちです。中心は若い子や学生さんになります。

ということは、投票用紙を持っているのもその子たちなんです。食べ歩きの点数をつける層でもなければ、料理に詳しい大人でもありません。

だから狙うのは、若い子が喜ぶものです。野菜より肉。その場ではこう言いました。

どうせ野菜なんか食わないでしょ、あの子たちは。

言い方は雑ですが、本音です。体に良さそうな一皿と、肉が乗った一皿を、若い子の前に並べて写真で選ばせる。どっちに票が入るかは、考えるまでもないですよね。

地元の魚は、誰に向けたら効くのか

ここで対抗案が一つありました。地元で獲れる魚を使う案です。アジフライのような、その土地らしい一品ですね。

これは悪い案ではありません。地域の応援や、地元の産業を盛り上げたい、という文脈で見せるなら、地元の魚はかなり強いです。見る人が地元の大人だったり、応援したい気持ちで来ている人だったりすれば、票につながります。

ただ、今回並べたのは「地元の魚を出す案」と「肉を出す案」で、比べる物差しは票が動くかどうかでした。そして投票するのは若い子です。若い子は、地元の魚に票を入れません。

なので今回は肉を採りました。地元の魚が弱いわけではなくて、今回の投票者に効かないという話です。同じ一品でも、誰の前に置くかで価値が逆転するんですよね。

こうやって、誰が選ぶのかから逆算して決めていくんです。

次に、単価が上がっても来る一品を乗せました

エビが乗ったら、高くても食べに来てくれる

若い子、肉、ボリューム。この三つを満たす軸として出てきたのがカツカレー系です。そこにもう一品、エビフライを乗せる。つまりエビカツカレーですね。

なぜわざわざ乗せるのか。当日はこう言いました。

エビが乗ったら、高くても食べに来てくれるんですよ。

安くして数を取る、という方向ももちろんあります。でも、写真で選ばれる場ではあまり効きません。安そうな写真は、安そうにしか見えないからです。

ステイタス感を出すのがコツです

ステイタス感というと曖昧に聞こえるので、具体的に言い直しますね。写真で見たときに「ちょっといいやつ」に見えるかどうか、です。

カツカレーの写真を二枚並べてみてください。片方は普通のカツカレー。もう片方は、そこにエビフライが一本乗っている。

同じ千何百円でも、後者は特別な一皿に見えるんです。量を増やしても、この見え方にはなりません。盛りが多いだけの写真は、単に多いだけに見えるんですよね。

だから単価を上げるときは、量を足すのではなく、一段上に見える一品を足す。写真で勝負する場では、この差がそのまま票の差になります。

地元産を混ぜて、選ぶ理由をつくる

もう一つ足したのが、地元感です。

具体的には、こういうやり方を出しました。

  • 衣に使う小麦粉を地元産にする
  • 揚げ油を地元産にする
  • カレーに果物やナッツを混ぜる

果物を混ぜるというのは思いつきではなくて、近くの市に、フルーツを入れる意識の高いカレー屋さんが実際にあります。

さっき「地元の魚は若い子に効かない」と言ったばかりなので、矛盾に聞こえるかもしれません。違うのは見せ方です。地元の魚を主役に据えると「地元の料理」になってしまいますが、粉や油を地元産にするのは、主役を変えずに理由を一行足す作業なんです。

投票する側からすると、票を入れる理由が一つ増えます。うまそうだから、に加えて、地元のものを使ってるから、が乗る。一票の背中を押すのは、こういう小さな理由だったりします。

それでも、中身だけでは手は動きません

ここまでで、誰に向けるかと、何を乗せるかは決まりました。

でも、思い出してください。見る人は現物を食べません。目に入るのは写真と、その横に書かれた文字だけです。

エビが乗っているのは写真で伝わります。地元の粉を使っていることは、写真では伝わりません。

じゃあ、その一票はどこで決まるのかって話ですよね?

最後に、名前で勝ちにいきました

票が動くキーワードは「スタミナ」です

答えはあっさりしています。当日はこう言いました。

メニューで勝つキーワードはスタミナです。スタミナという言葉を入れた方が、投票に移りやすいんです。

スタミナという言葉には、説明がいりません。栄養バランスがどうとか、たんぱく質が何グラムとか、そういう話を一切しなくていい。読んだ瞬間に「力がつきそう」で終わります。

しかもこれ、その場の思いつきで言っているわけではないんです。僕は以前、別の店で実際に試したことがあるんです。

念のため書いておきますが、スタミナと入れれば必ず一位、という話ではありません。そんな魔法の言葉なら、とっくに全員が使っています。言えるのは、投票する側の手が動きやすくなる、というところまでです。それでも、動きやすい方を選ばない理由はないですよね。

「勝ち飯」を重ねます

スタミナだけでは、まだ普通の定食屋の看板です。そこにもう一枚重ねます。

その日の会場は、勝ち負けを決めに来ている場所でした。将棋を指しに来ている子は、全員が勝ちたくて座っています。だったら、食べるものにも勝ちを乗せてしまえばいい。

そこで「勝ち飯」です。スタミナが体の話なら、勝ち飯は目的の話ですね。同じ一皿が、力のつく飯から、勝つための飯に変わります。

「神社」で縁起まで担ぎます

さらに縁起を足しました。「神社」という言葉です。

勝負ごとに縁起を持ち込むのは、理屈ではありません。験を担ぐなんて非科学的だ、と笑われるかもしれません。恥も外聞もありません。勝負の場に来ている人は、勝てそうな方に手が伸びるんです。だったらこっちで先に担いでおけばいい、という考え方です。

ゴロで覚えてもらいます

そうやって重ねていって、僕がその場で出した完成案がこれです。

「王者の勝ち飯 スタミナ神社、勝利を呼び込むエビカツカレー」

当日はこう言いました。

こういうゴロ、好きなんですよね。

長いですよね。ふざけてると言われそうです。周りは笑いますが、誰になんと言われようとも、この名前で出します。写真の横に一行しか置けないなら、覚えて帰ってもらえる一行にした方がいいからです。

商品名を中身の説明にしてしまう人は本当に多いです。「地元産小麦を使ったエビカツカレー」でも、たしかに正確ではあります。でも、正確なだけでは票は動きません。

うちのような会社には、大手のような広告費もありませんし、行列で信用を作れる看板もありません。だからこそ、うちの身の丈で勝てる条件を自分で見つけないといけないんです。写真一枚と一行で決まる勝負なら、勝ち筋は名前にあります。

商品名は、中身を説明する言葉ではなく、選ぶ人の手が動く言葉で決める。今日はこれだけ持ち帰っていただければ十分です。