「今さら連絡したら迷惑じゃないですか」
工事が終わって数年、こちらからは何も言っていない。そんなお客様に、用もないのに電話をかける。たしかに気が引けますよね。
そのとおりです。いきなり用件から入る電話なら、迷惑です。ただ、迷惑になるかどうかは、かけたこと自体ではなく、しゃべる順番で決まります。
今回は、数年前に工事をさせてもらったお客様にかける定期点検の電話を、そのまま文字にしてお渡しする話です。
僕は口のうまい営業マンではありません。その場の空気で話をまとめる才能なんて、これっぽっちもないんです。だから電話も、しゃべり方ではなく順番で組みました。やったことは3つです。
まず、名乗ったあとに黙りました
最初の一言は用件ではない
実際に使っている電話の一言目は、これです。実在の会社で今も使っている台本なので、どこの会社か分からないように業種の名前だけ変えてあります。言葉の順番と、間の取り方はそのままです。
「ご無沙汰しております、◯◯(店の名前)です。数年前に工事をさせていただきました、その節はお世話になりました。その後、いかがお過ごしでしたか?」
これだけです。点検の話も、金額の話も、日程の話も、一言も出てきません。
見ていただきたいのは、最後が問いかけで終わっているところです。「その後、いかがお過ごしでしたか?」ここで一度、こちらの話が終わってるんですね。
多くの電話が失敗するのは、ここを止めないからなんです。名乗って、思い出してもらって、その勢いのまま「実は今回ご案内が」まで一気にいってしまう。そんな人が多いですよね。気持ちはわかります。用件を言わないと、何のためにかけたのか分からないと思われそうで、こわいんですよね。

でも、受け取る側からするとこうです。数年ぶりに電話が鳴って、名前を思い出す前に案内が始まる。それはもう、知らない番号からの営業電話とほとんど同じなんです。
返答を待つのは何のためか
この台本でいちばん変わっているのは、次のところです。
台本に「お客様の返答を待つ」という一行が、動作として書き込んであるんです。しかも2回。
普通、営業トークの台本には、こちらがしゃべる言葉しか書きません。黙る時間をわざわざ文字にして残している台本は、そう多くないと思います。
なぜ書いてあるのか。待つのは、こちらの都合を通さないためです。言い換えれば、電話の主導権を最初にお客様へ渡してしまう。渡したうえで、返ってきてから話を進める。
そうなんです、待っていたら電話は長くなるのですが、その代わり切られにくくなるんです。一方的にしゃべり切る電話は、たしかに1件あたりは短く済みます。でも、途中で「けっこうです」と言われて終わる確率が上がる。早く切り上げた電話の数を数えても、仕事にはつながりません。数えるなら、最後まで聞いてもらえた電話の数です。
待つ、というのは何もしていないように見えます。だから台本から真っ先に消えるんですね。消えると、残るのは用件だけになります。そうやって、アフターフォローの電話がいつのまにか営業電話に化けていくわけです。
「その後いかがお過ごしでしたか」で止める
返答があったら、こう受けます。
「それはよかったです。工事させてもらったところ、その後の具合はいかがですか?」
(ここでもう一度、お客様の返答を待つ)
「ありがとうございます。」
2回目の問いかけで、やっと工事の話に触れます。それでも、まだこちらの用件は出てきません。出てくるのは「具合はいかがですか」という質問だけです。
そして返ってきたら「ありがとうございます。」で受ける。評価もしないし、そこに営業をかぶせもしない。
この2往復で何が起きているかというと、お客様の側に「この電話は自分の話をしていい電話だ」という状態ができています。その状態ができていない電話に、何を提案しても通りません。提案の中身が悪いのではなく、聞く姿勢ができる前に出してしまっているんです。
次に、点検のご案内を「お付き合い」として出しました
売り込みに聞こえない理由づけ
ここまで来て、ようやく用件です。
「今回お電話を差し上げたのは、工事から数年のお付き合いということで、定期点検のご連絡でした。」
この一文、よく読むと変なんですよ。「ご連絡でした」と、過去形で終わっています。
たぶん書いたときは深く考えていないと思います。でも、この過去形が効いてるんですね。「これからご提案します」ではなく「そういう連絡だったんです」という言い方になっているので、押してくる感じがまったくしません。
もう一つ大事なのが「お付き合いということで」という理由づけです。点検の電話をかける理由には、いくらでも言いようがあります。
- 経年でそろそろ傷みが出る時期なので
- 今ならキャンペーンで安くできるので
- 近くまで行く用事があるので
どれも間違いではありません。ただ、1つ目は不安を持ち出しています。2つ目は完全に販売の話です。3つ目はこちらの都合です。
「お付き合いということで」は、そのどれでもない。不安も出さないし、売り物の話もしないし、こちらの都合でもない。数年前に取引があった、その関係が続いているという事実だけを理由にしています。
これではいけない、ってことで立ち止まって考えると、たいていの人は理由をもっと強くしようとするんです。もっと不安を煽るとか、もっと割引を大きくするとか。そっちに行くと、電話は年々かけにくくなります。理由を強くするほど、お客様は身構えますから。
無料と所要時間を先に言う
用件の直後に、これが来ます。
「お時間数十分ほどで、無料で参ります。」
短い一文ですが、ここでお客様が気にすることをまとめて先に潰しています。
- いくらかかるのか
- どれくらい時間を取られるのか
- 何をしに来るのか
3つとも、聞かれてから答えるのでは遅いんです。聞かれるということは、その時点でお客様の頭の中に「断る理由」が並び始めているということですから。
とくに費用です。無料と言わずに日程の話に入ると、お客様は「点検と言いながら見積りを出しにくるのでは」と考えます。その疑いを持ったまま予定を決める人はいません。だから先に言い切ってしまう。
所要時間も同じです。数十分と言われれば、お客様は自分の予定表に置いてみることができます。時間が読めない訪問は、それだけで断られます。
順番でいうと、こうなっています。
- 何のための電話か(お付き合いの定期点検)
- いくらかかって、どれくらいで終わるか(無料・数十分)
- それで、いつにしましょうか(日程)
判断に必要な材料を全部渡してから、最後に決めてもらう。言い換えれば、断る理由を先にこちらで消しておく。うまいことを言って押し切るのとは、まるで逆の作業です。
日程は相手に決めてもらう
日程の切り出しはこうです。
「・・・それで日程の方ですが、ご都合いかがでしょうか?」
こちらから候補日を出していません。「来週の火曜か木曜でしたら」と挟みたくなるところですが、挟んでいないんです。
候補を出すのは、決めてもらうためではなく、こちらの段取りのためですよね。それをやると、お客様は自分の予定ではなく、こちらの空きに合わせるかどうかの判断をすることになります。合わなければ、そこで話は終わります。
「ご都合いかがでしょうか」で渡すと、返ってくるのはお客様の予定です。今は忙しいけど来月なら、という答えも返ってきます。それは断りではなく、日程の相談なんですね。
そして頭の「・・・」です。台本に三点リーダーが入っているのが僕は好きなんですよ。ここで一拍置け、という指示です。点検の説明から日程の質問へ、息継ぎなしでつなぐと、詰めているように聞こえますから。
最後に、当日の段取りまで電話で渡しました
前後30分の申し送りを先に言う
最後の一文が、この台本でいちばん地味です。
「また当日は直前の作業の都合で、30分ほどお時間前後するかと思います。」
日程が決まったあとに、当日ずれるかもしれないという話をしています。わざわざ言わなくてもいい話です。言えば「じゃあ、その日はやめておきます」と言われる可能性だってあります。
それでも先に言うのは、そのほうが後で困らないからです。当日30分遅れて、何も聞いていないお客様の家に着く。それが1回あるだけで、次の電話はもうかけられません。
30分前後するかもしれない、と先に伝えてある訪問なら、遅れても遅刻ではないんですね。同じ30分でも、伝えてあるかどうかで扱いが変わる。
現場を持っている人ほど分かると思いますが、直前の作業が押すのは避けられません。避けられないものを、なかったことにして予定を組むから事故になります。避けられないなら、先に申し送っておく。そうなんです、順番を変えただけで、遅刻が遅刻でなくなるんです。
点検の電話は提案の場ではない
ここまでの電話を通しで並べると、こうなります。
- 名乗って、その後どうでしたかと聞いて、待つ
- 工事したところの具合を聞いて、待つ
- お付き合いということで定期点検、無料で数十分
- ご都合はいかがでしょうか
- 当日は30分ほど前後するかもしれません
見積りの話は、一言も出てきません。新しい商品の案内も、値上げの話も出てきません。
出さないんです。この電話の目的は、訪問の約束を1件取ることだけだからです。
売り込みたい気持ちは分かります。せっかく数年ぶりにつながったんだから、今のうちに、と思うんですよね。でも、そこで一つ乗せた瞬間に、この電話は営業電話に戻ります。戻ると、待った意味も、無料と先に言った意味も、全部なくなるんです。
提案は、訪問した先ですればいい。そのときはもう、お客様は自分の家でこちらの顔を見て話をしている状態です。電話口で聞く話と、その場で見ながら聞く話では、伝わり方がまるで違います。
かけ直す口実が一本増える
もう一つ、この電話には後から効いてくるものがあります。
点検に行くと、次にかける口実ができるんですね。点検の結果をお伝えする電話。様子を見ましょうと言った箇所の、その後を確認する電話。
数年ぶりに突然かける電話と、点検の続きでかける電話では、しんどさがまるで違います。かける側の心理的なハードルが下がると、電話の本数は自然に増えます。本数が増えれば、断られる回数も増えますが、つながる件数も増える。
そうやって、一度きりの営業電話ではなく、続きのある電話になっていきます。台本の一言目が「その後、いかがお過ごしでしたか?」で始まるのは、そういう電話にしたいからなんです。数年前に一度取引した相手ではなく、今も付き合いのある相手として電話をかける。
だとすると、やることは決まってきます。名乗ったら、待つ。用件は、断る材料を消してから出す。当日の段取りまで、電話のうちに渡してしまう。
しゃべりの才能がなくても、この順番なら守れます。僕がやっているのも、それだけです。
