熊本地震のい草農家さんを訪ねた日。手渡しの席で、まず言われたこと
今年、令和8年の7月28日に起きた熊本地震では、い草の産地が大きな被害を受けました。その産地へ、10月14日に伺ってきました。場所は熊本県八代市のJAやつしろい業センターです。8月に開いたチャリティーセミナーの寄付金100万円を、JAやつしろい業部会の吉住忍部会長に直接お渡ししました。
100万円の中身は、セミナーに参加してくださった方々の受講料87万円(申込44名)に、有志の方々からの寄付と、当社の分を足したものです。会場費や決済手数料といった経費は、すべて当社で負担しています。ご参加の方がせっかく出してくださった受講料ですから、そこから経費を引いて目減りさせたくなかったんです。いただいた受講料は、そのまま全額、産地へお届けしています。
ただ、僕の仕事は畳の売り方を一緒に考えるところまでです。い草づくりの苦労を、農家さんと同じ目線で語れる立場ではありません。
手渡しの席でまずいただいたのは、支援の早さへの評価でした。地震の直後からセミナーを開いて、寄付を集めた。その動きの早さを、部会のみなさんが見ていてくださったんです。
地震の当日に、なぜセミナーを決められたのか
地震が起きた7月28日のうちに、八巻畳工業の八巻太一さんと相談して、畳店の経営者なら誰でも参加できるチャリティーセミナーを開くと決めました。昨年、令和7年8月豪雨のときにも25社から集めた70万円を産地へお届けしましたが、こういう寄付って準備から実行まで時間がかかるのが、いつも課題でした。
今回は当日に決めたので、翌29日から募集を始めて、地震から10日後の8月7日には、東京でセミナーを開催することができました。震災から間を置かずに、畳店のみなさんへ声をかけられたわけです。
また、チャリティーの内容をセミナーにしたのにも、理由があります。被災した農家が設備を直すとき、気になるのは、直したあとに注文が入るかどうかです。来年も再来年も畳表が売れる見通しがなければ、経営者として設備投資には踏み切れませんよね。だからテーマは、畳店が高品質な国産畳表を売って、利益を残すための手法にしました。参加した畳店が良い畳表を売れるようになれば、来年以降、産地に注文が入っていきます。それで今回はチャリティーセミナーの開催にこだわっていました。
こちらのセミナーの様子は、8月8日のNHK総合「サタデーウオッチ9」でも紹介していただきました。そして10月の手渡しの席では、産地と畳店の取引をこれからも続けて広げていくことにも、賛同をいただけました。
お金より先に、産地が心配していた「い草の価格」のこと
同じ席で話題に上がったのが、い草の相場のことでした。震災の影響で、いま、い草の相場が上がっています。その値上がりが、畳店や、畳を使うお客様にどう響くのか。部会の方々は、それを気にしておられました。
贈呈のあとに、みなさんと撮っていただいた集合写真です。
畳店のみなさんも、思い当たるところがあるんじゃないでしょうか。仕入れが上がった。でもお客様には、言い出しにくい。見積もりの金額を上げたら、よそに頼まれてしまうかもしれない。結局、上がったぶんを自分の店でかぶって、利益を削ってしまう。
これを続けると、畳店の利益が薄くなって、良い畳表を仕入れる余裕がなくなっていきます。畳店が安い畳表しか扱えなくなれば、産地には上位品の注文が入らなくなります。僕は、相場を気にされていた先には、この流れへの心配もあるんじゃないかと思っています。
値上がりを、畳店の売れる理由に変えられるか
では、この値上がりをどう受け止めたらいいのか。その席では、こういう話になりました。
い草の価格は、これまでが安すぎた面もある。だから、これからも高い付加価値で取引を続けていけるようにしよう。
僕も、ここは本当にそう思います。手間をかけて育てたい草が、それに見合った値段で売れていなかった面がある。その状態が当たり前になっていたからこそ、値上がりと聞くと、みんなが身構えてしまうんですよね。
今は畳の作り手ではない僕が手伝えるのは、ここから先の売り方の部分です。お客様が値段だけで畳を選んでいるなら、値上がりはそのまま断られる理由になります。一方で、良い畳表を良いと分かったうえで選んでいただける売り方ができていれば、値段が上がっても、その店に頼んでくださいます。8月のセミナーでお伝えした手法も、そのためのものです。
単なる募金で終わらせず、より良い商品を、より価値のある形でお客様へ届けられるよう、これからも畳店のみなさんといろんな取り組みを続けていくつもりです。災害のときだけでなく、何もない平時から、産地と畳店が手を取り合っていける。そんな業界をつくっていけたら、これからの畳の仕事がもっと楽しみになりますよね。
