「従業員に売り込みを教えたいんです。でも、いざ教えようとすると、みんな嫌がるんですよね」。こういう相談を、私はよく受けます。
売り込むことは、決して悪いことではありません。会社を続けるためには、当然必要なことです。ところが職人さんや現場のスタッフにとっては、そうは感じられないんです。「お客様に何か買わせようとしている」という後ろめたさが先に立ち、教えれば教えるほど、かえって現場が動かなくなります。もどかしいですよね。増えた人手を、なんとか売上につなげたいのに、そのやり方を教えることそのものが空回りしてしまいます。
以前の問題解決ワークでも、ある施工業の社長から、まさにこの相談がありました。新しく職人を雇うにあたって、既存のお客様からどう仕事を増やしてもらうか、というテーマです。今日は、その場で私が紹介した手を、開催レポートとして紹介します。
職人に「売り込んでこい」と言うと、嫌がられる
相談の出発点はシンプルでした。人を一人増やしたのだから、その分の仕事を増やしたいところです。ところが、いざ職人さんに営業のやり方を教えようとすると、みんな嫌がるんです。
ここ、実はよくある落とし穴です。売り込みという言葉を使った瞬間に、現場で働く人にとっては「お客様に無理を言う仕事」に変わってしまいます。教える側は営業スキルのつもりでも、教わる側には気が重い宿題にしか見えません。ですから、同じ相談は他の社長からもよく届きます。無理に売り込ませようとするほど、現場のスタッフは委縮し、かえって成果が遠のいてしまうんです。
現場が終わったら15分、お客さんのために何か一つ
そこで私が紹介したのは、自分の会社で実際にやってきたことでした。現場の仕事を終えたら15分、お客さんのために何か一つやってこい、というものです。
何をやるかは決めていません。犬の散歩でも何でもいい、と職人には伝えていました。表立って「何でもやりますよ」と宣言するわけではなく、実際に現場へ行けば、気づくことがあるものです。建て付けの悪い襖を直します。動かない網戸を見ます。何パターンか試していれば、どこか一つはおかしいところが見つかります。それを一つ解決して、お客さんが何と言っていたかを聞いて帰ってくる、というだけです。やることは、これだけです。

なぜ、これがアップセールの準備になるのか
この段階まで来ると、実はもうアップセールの準備が整っています。
従業員に売り込みのやり方を教えても、従業員は嫌がります。ところが建具を直してあげるなどして「よくしてもらった」と感じてもらうと、返報性の法則が働くんです。よくしてもらったら何か買ってあげなきゃ、とお客さんは思います。「この子はいい青年だね」となり、そこから「じゃあこの襖もお願いね」につながりやすくなります。
売り込んだわけではありません。ただ、お客さんのために15分を使っただけです。それでも結果として、次の注文が生まれます。これは新規のお客様を集める集客ではなく、既存のお客様から追加の受注を引き出す仕組みなんです。営業トークを一言も使わずに、お客さんの側から声をかけてもらえます。ここが、この手のいちばんの強みだと思っています。
全部が注文になるわけではありません
もちろん、毎回きれいに注文につながるわけではありません。スイカをたくさんご馳走になって終わることもあります。それでも、それはそれでいいんです。お客さんとの繋がりができるからです。無理に成約させようとしていないからこそ、うまくいかなかった日があっても、次の現場でまた同じことを続けられます。
私の会社でバックオーダーが取れている理由は、実はこれなんです。職人が現場でその場で値段を聞かれたら、すぐ電話で確認すればいいだけです。それだけで、職人一人分くらいの仕事量は、この15分から生まれます。特別なトークも、値引きの提案も要りません。ただ、現場に着いたら15分だけ、お客さんのために目を配ります。それだけを続けた結果です。
おわりに
売り込みを教えるより先に、現場後の15分を使います。遠回りのようで、実はこれが一番早い道でした。お客さんのために何か一つやってきます。それだけで返報性が働き、こちらから頼まなくても、次の依頼が向こうからやってきます。
大事なのは、営業のスキルを教え込むことではありません。現場に行けば気づくことがある、という前提を職人と共有し、それを実行する時間を15分だけ確保することです。教える内容を減らし、任せる範囲を広げます。人を増やしたときほど、こちらの発想を変える必要があります。
増えた人手をどう動かせば、既存のお客様との関係が深まるか。売り込みという言葉を使わずに、追加の受注をどう引き出すか。自社の現場に置き換えると、何をこの15分に充てられるか。一人で考えると止まりがちなところなので、よかったら一度、あなたの現場の仕組みを一緒に整理させてください。
