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一通り説明したのに「検討します」で終わる商談を、質問の順番だけで変える話。

「検討します」の切り返し方 ― 買わない理由を一つずつ外して、その場で決めてもらう質問

うちのコミュニケーション講座で配っている冊子から、クロージングの質問を順番のまま取り出してお渡しします。理想を全部しゃべってもらい、合わない条件を一つだけ残し、残った理由を一つずつ外していく。話術ではなく順番の話なので、口下手な人ほど効きます。

3枚並んだ札のうち上の1枚を外していく男性を描いたイラスト

「そんな聞き方したら失礼じゃないですか」

商品の説明を一通り終えたところです。相手の反応も悪くありません。質問も出ましたし、うなずいてもくれました。それでも最後は「検討します」で終わる。その帰り際に、買うか買わないかを正面から聞く。たしかに、失礼な気がしますよね。

そのとおりです。説明の途中で、いきなり買うか買わないかを聞いたら、失礼です。ただ、失礼になるかどうかは、聞いたこと自体ではなく、聞く順番で決まります。

今回は、うちのコミュニケーション講座で配っている冊子から、クロージングの質問を順番のまま取り出してお話しします。

僕は押しの強い営業ができる人間ではありません。渋っている相手を、その場の勢いでひっくり返す話術なんて持ち合わせていないんです。だから商談も、しゃべる中身ではなく、質問の順番で組みました。順番でやったことは3つです。

まず、理想が全部叶った状態を先にしゃべってもらいました

できるかできないかは置いておいて

商談の前半、困っていることを一通り聞き終えた場面です。こちらの商品の話は、まだ一言も出していません。その段階で、相手にとって完璧な状態を聞きにいきます。

このとき冊子に書いてある前置きが、これです。

「できるかできないかは置いておいて」

たったこれだけの一言なんですが、置くのと置かないのとで返ってくる答えが変わります。

前置きなしで理想を聞くと、相手は勝手に予算と納期を頭に入れて答えるんですね。「まあ、うちの規模だとこのくらいですかね」という答えになる。それは理想ではなく、相手が自分で値切ったあとの妥協案です。妥協案を聞き出して、そこへ提案を合わせにいくと、商談は最初から縮んだところで始まります。

制約込みで考えてもらうと、相手の120パーセントの理想は出てきません。ですから先に、制約は外していいですよと伝えておく。

もう一つ、冊子には理由も聞いておくようにと書いてあります。なぜその状態が理想なのか。理由によっては、こちらが出す商品そのものが変わることがあるからです。同じ「早く欲しい」でも、決算に間に合わせたいのか、現場が止まっているのかで、出すものは別になりますよね。

全ての条件揃った場合どうされますか

理想を全部しゃべってもらったら、次の質問です。値段も納期も、まだ一切出していない段階で聞きます。

「全ての条件揃った場合どうされますか?」

冊子には、こういう聞き方も載っています。

「理想が全部叶った完璧な状態が出来上がったらどうします?」

どちらも同じことを聞いています。条件が全部そろった前提で、そのあとどうしますかと聞いているんです。

この質問の狙いは、相手の頭の中で買い物を済ませてもらうことにあります。買うかどうかを考えている人と、買ったあとの動きを考えている人とでは、頭の中の作業が違うんですね。後者はもう、次の行動を組み立てはじめています。

ですから、返ってくる答えを聞き逃さないことです。「じゃあ、いつから入れられますか」と返ってくるなら、頭の中ではもう買っています。そうではなく、条件を全部そろえた前提でもなお言葉が濁るなら、そろえた条件のほうが間違っています。

買いますと言わないなら、その日は帰る

冊子でいちばん強い書き方をしているのが、この部分です。「買います」以外の答えなら帰ってもよい、と書いてあります。

条件を全部そろえてもなお買わないと言う人に、その日いくら粘っても決まりません。そうなんです。そこで粘ってやることといえば、たいてい値引きです。値引きで動いた商談は、次も値引きでしか動かなくなります。

とはいえ、帰るのは勇気がいりますよね。せっかく時間をもらって、ここまでしゃべったんだから、という気持ちになります。その日の営業を手ぶらで終える怖さもあります。

でも、帰るというのは商談を捨てることではないんです。条件がそろって買いますと言わないなら、聞き取った理想のほうが本物ではなかった。つまり、戻る場所は決まっています。できるかできないかは置いておいて、の質問まで戻ればいいだけです。

てなわけで、その日の目標は契約ではありません。買いますと言うか言わないかを、その場ではっきりさせること。それが分かれば、粘る日と帰る日を自分で選べるようになります。

次に、合わない条件を一つだけ残しました

選択肢は1つに絞る

理想を聞き終えて、いよいよこちらから提案を出す場面です。

3枚から2枚、最後の1枚へと条件を外していく流れを3段階で示したイラスト

ここで多くの人がやるのが、松竹梅で3案並べる提示ですよね。選んでもらったほうが親切だと思うからです。

冊子はその逆で、選択肢は1つに絞ると書いてあります。複数の選択肢は、混乱と迷いの元だからです。

3案並べたときと、1案だけ出したときで、相手の頭の中を比べてみます。3案並ぶと、相手はまず「どれにするか」を考えはじめます。考えているうちに、比べる作業そのものが面倒になってくる。そして面倒になった人の答えは「どれにするか」ではなく「今回はやめておくか」に化けます。1案だけなら、考えることは「これをやるかやらないか」しかありません。決まるのが早いのは、後者です。

よほど相手が中身まで決めきっている場合でない限り、提案は1つに絞るのがこの手法のセオリーです。

値段だけ合わないとしたら

1つに絞った案を、どう出すか。冊子に載っている提示の言い方が、これです。

「全ての条件が満たされるのですが、○○だけ合わないです。どうしましょうか?」

営業クロージングの章では、○○のところに値段を入れた形で書いてあります。

「値段だけ条件に合わないですがどうします?」

○○のところは、業種によって入る言葉が変わります。自分の商談で毎回引っかかるものを入れて読んでください。

この一文がやっていることは、3つあります。

  • 合っている条件を、合意済みのものとして先に固定する
  • 合わない条件を、1つだけに限定する
  • 決めるのはこちらではなくお客様だ、と渡す

ふつう、値段が合わないという話は、相手の口から出てきますよね。出てきてから、こちらが値引きに応じるかどうかで返す。その形だと、話し合っているのは値段だけになります。

先にこちらから言うと、順番が入れ替わるんです。値段以外は全部そろっている、という前提が立ってから、値段の話に入る。同じ値段の話でも、置かれている場所がまるで違います。

相手が考えている間はスイッチを切って待つ

提示したあと、相手が黙る時間があります。冊子には、この待ち時間はスイッチオフで待つと書いてあります。

これがきついんですよね。黙られると、断られる前ぶれに見えます。だから、つい埋めにいってしまう。補足を足したり、他社と比べた話を始めたり、こちらから値引きを持ち出したり。

ただ、その沈黙は迷っている時間ではなくて、計算している時間です。いつから始めるか、社内をどう通すか、どこから金を出すか。そこへこちらの声が入ると、相手の計算は止まります。止まったら、また最初から考え直すことになる。考え直す手間を渡された人が言う言葉が、「検討します」なんです。

沈黙を埋めた商談と、黙って待った商談。決まるのは、待ったほうです。

質問が返ってきたら、決める余地を残して答える

沈黙のあとに、相手から質問が返ってくることがあります。冊子には、そのときの答え方まで書いてあります。相手が選択したり考えたりする余地を与えるような返答を心がける、と。

ここで全部を説明し切ってしまうと、商談はこちらの説明に戻ります。説明に戻ると、相手はまた聞く側です。聞く側に戻った人は、その場では決めません。

そうではなく、答えたあとの余地を相手に残しておく。聞かれたことに答えて、それでいかがされますかと戻す。相手が決める作業をしている間、こちらは邪魔をしない側に回るということです。

同じ内容をしゃべっても、しゃべり終わりが説明で終わるか質問で終わるかで、次に口を開く人は変わりますよね?

最後に、残った理由をパラメータとして潰しました

断る理由は、一つずつ外していきます

値段だけ合わない、と出したあとに、断る理由が2つ3つと返ってくることがあります。費用も気になるし、納期も待てない、といった具合です。

並べられると、こちらは打つ手がなくなった気になります。値段を下げれば納期が残り、納期を詰めれば費用が上がるからです。

ここでやることは一つです。どれが本音なのかを、先に確かめる。

並んだ断り文句は、たいてい片方が本音で、もう片方は添え物です。添え物のほうに向かって値引きをしても、商談は動きません。

外れた理由は、あとで蒸し返されません。これを繰り返していくと、最後に本当に決まらない理由が1つだけ残ります。

言い方を変えれば、断る理由を一つずつ外して、残り1つにする作業です。理由が5つある商談は、こちらからは動かせません。残り1つになった商談なら、動かせます。

最初の一歩を確認して終わる

理由が外れて、話がまとまりそうになったところで、最後の質問です。

「合意した場合、最初の何から取り掛かりますか?」

冊子ではこれを、最初の第一歩の確認と呼んでいます。

決まりそうな空気になると、こちらはお礼を言って帰りたくなります。そこを我慢して、もう一つだけ聞いておく。契約したあと、まず何から始めるかを、相手の口から言ってもらうんです。

言ってもらうと、その場で2つのことが分かります。段取りがすらすら出てくるなら、頭の中ではもう始まっています。出てこないなら、まだ決まっていません。決まっていないことがその場で分かるほうが、帰ってから返事を待たされるよりずっとましですよね。

そして、この質問がクロージングの最後に置いてあるのには、理由があります。冊子のヒアリングの大原則が、相手に喋らせることだからです。いちばん重いのは、自分が思っていることを相手の口に言わせること。

ここまで並べてきた質問も、結局は全部それをやっています。

  • できるかできないかは置いておいて、と理想を言ってもらう
  • 全ての条件揃った場合どうされますか、と買ったあとを言ってもらう
  • 最初の何から取り掛かりますか、と始め方を言ってもらう

こちらがしゃべっているのは、質問だけなんですね。商品の良さを語って押し込む場面が、一つもありません。

僕のように押しの強さで勝負できない人間には、これはありがたい話です。話術は練習しないと身につきませんが、聞く順番なら今日の商談から変えられます。