「決済なんて、どれを入れても同じでしょう」
自社サイトで物を売っていて、アクセスはそれなりにある。商品ページも見てもらえているし、買い物かごに入れるところまでは進んでもらえる。それなのに、注文の数だけが増えていかない。そんな状態で「決済を変えましょう」と言われても、しかも手数料の話までくっついてくると、正直ピンとこないですよね。
そのとおりです。どの決済を入れてもカードは切れますし、お金はちゃんと入金されます。機能としては同じです。ただ、同じなのは「買うと決めきったお客様」にとっての話なんです。まだ半分迷っているお客様にとって、決済は支払い方法ではなく、これから始まる入力作業のことなんですね。
今回は、自社サイトで物を売っているある事業者の方が、大手モールに出すかどうかで迷っていたときに、一緒に決めた3つのことをそのままお話しします。
僕はネットの売り場に詳しいほうではありません。ただ、お客様が手を止めてしまう場所がどこかは、仕事柄ずっと見てきました。なので今回も、何かを増やす話ではなく、減らす話になります。
決めたのは3つです。
- 大手モールには出品しない
- そのモールの決済のしくみだけを自社サイトに借りる
- 勢いで買える価格帯を先に決めておく
まず、モールに出品するのをやめました
相談の最初のテーマは、出すか出さないかでした。自社サイトだけでは頭打ちだから、大手のモールに出したほうがいいのではないか。周りの同業者も出しているし、出せば人が見てくれるはずだ。そういうお話でした。
やめました、と見出しに書きましたが、正確には、その方と話して出さないことに決めた、です。僕が横から止めたわけではありません。
物を入れるのと、決済を借りるのは別の話です
まず整理したのが、モールに対してできることは一つじゃない、という点でした。
一つは、モールに商品を入れることです。売り場を借りて、そこに商品を並べて、そのモールの中で売ってもらう。たいていの方が「モールに出す」と言うとき、思い浮かべているのはこちらです。
もう一つが、モールの決済のしくみだけを、自分のサイトに借りることです。売り場は自社サイトのまま。商品ページも、写真も、値段の付け方も、これまでどおり自分で決める。借りるのは、お客様が支払いを済ませる部分だけなんです。
この二つを比べると、手放すものがまるで違います。商品を入れるほうは、売り場も、お客様との接点も、値段の見せ方も、モール側の土俵に移ります。決済だけ借りるほうは、移るのは支払いの手続きだけです。
一体のものだと思い込んでいると、出すか出さないかの二択になってしまいます。実際には、出さずに借りるという三つ目があるんですね。今回選んだのは、その三つ目でした。
そのモールの経済圏にいる人しか来ません
出さないと決めた理由の一つ目が、来てくれる人の顔ぶれです。
モールに商品を並べると、そのモールを普段から使っている人には届きます。ポイントを貯めていて、セールの日を知っていて、買い物はまずそのモールを開くところから始まる人たちです。反対に、そのモールを使っていない人には、並べても一生届きません。
お伝えしたいのは、どのモールが良いという話ではなく、モールという売り方そのものの性質です。
自社サイトのお客様と、モールのお客様。この二つは重なっているようで、実はきれいには重なりません。検索から自社サイトに来てくれていた人が、モールに出した途端にそちらへ移ってくれるわけでもないんです。
つまり、モールに出すというのは、いまのお客様を連れていく話ではなくて、まったく別の人だまりに向かって、もう一度ゼロから店を出す話なんですね。それをやる体力があるならいいと思います。ただ、その方の場合は、自社サイトに来てくれている人の取りこぼしがまだ残っている状態でした。新しい人だまりを探しにいく前に、目の前で消えている人を減らすほうが先です。
店をもう一軒持つ手間を数えてみる
理由の二つ目が、続けるための手間です。
モールには、そのモールごとのルールがあります。セールへの参加のしかたや、表示のしかたが決まっていて、しかも変わっていきます。中身をひとつずつ挙げることはしません。モールごとに違いますし、時期によっても変わるので、書いた瞬間に古くなる情報だからです。
代わりに、数え方だけお伝えします。モールに店を持つというのは、実店舗をもう一軒持つのと同じだと考えてください。そう考えると、聞くことは決まってきます。
- そのお店の中身を、誰が毎日見るのか
- ルールが変わったとき、誰が対応するのか
- その時間は、いま誰の手が空いているのか
社員が何人もいて、担当を置けるなら答えは出ます。けれど中小企業の現場だと、たいてい社長かパートさん一人の手に乗っかるんですよね。そして半年後、更新の止まった二軒目が残る。これ、けっこう見かける景色です。
売り場を増やす話は、増えたぶんの手間まで含めて足し算しないと、正しい判断になりません。その方の場合、二軒目を持てる手が空いていませんでした。だから、出さない。そう決まりました。
次に、住所を入力させない導線にしました
出さないと決まったところで、では自社サイトのどこを触るか、という話になります。相談でいちばん時間を使ったのが、この部分でした。
先に結論を書いておきます。触ったのは見た目ではありません。お客様に入力させる欄の数です。
お客様は住所の入力欄で我に返ります
買うと決めた瞬間のお客様には、温度があります。これ良さそうだな、うちで使えそうだな、という熱です。その熱があるうちに、買い物かごのボタンを押してくれるわけです。

そのあとに何が出てくるか。名前、フリガナ、郵便番号、都道府県、市区町村、番地、建物名と部屋番号、電話番号、メールアドレス。これを順番に埋めていくことになります。
指が止まるんですよね。特にスマホだと、小さい入力欄を一つずつ押して、変換して、次に進んでを何度も繰り返します。その繰り返しの途中で、頭が冷えます。
そして我に返るんです。あれ、これ今日じゃなくてもいいかな。もうちょっと他も見てからでいいかな。そのまま画面を閉じる。
かごに入れてくれた時点で、お客様はもう買うと一度決めてくれているんです。その決断を、こちらが用意した入力欄で取り消させている。考えてみると、これほどもったいない負け方はないですよね。
ただ、負けている場所がはっきりしているなら、やることも決まってきます。熱が冷める前に終わらせる。それだけです。
すでに住所が入っている、という強さ
そこで使ったのが、Amazon Payでした。
Amazonの決済のしくみを、自社サイトの支払いのところに置く、という使い方です。商品はAmazonに出しません。お客様が見ているのは、最初から最後まで自社のサイトです。支払いのボタンを押したときだけ、Amazonのしくみを通る形になります。
効きどころは、たった一つです。Amazonのアカウントには、もう住所が入っています。名前も、住所も、電話番号も、本人が過去に登録済みなんです。
だからお客様の画面に出てくるのは、空欄ではありません。自分の住所が、すでに表示された状態で出てきます。やることは、これで合っているかを見て、確定を押すだけ。
入力ではなく、確認になるんですね。指が止まる場所が、そもそも無くなるわけです。
もちろん、Amazonのアカウントを持っていない人には効きません。そこは正直に書いておきます。ただ、ネットで物を買ったことのある人が、あのアカウントを一つも持っていない確率はどれくらいでしょうか。その方の商品を買いそうなお客様の顔ぶれを思い浮かべながら、そこを話し合ったうえで、入れる価値があると判断しました。
見た目を直すより先に、入力欄を減らす
自社サイトで売れないという相談を受けると、たいてい最初に出てくるのは見た目の話です。写真が古いんじゃないか。ボタンの色が目立たないんじゃないか。説明文がもう少しうまく書ければ売れるんじゃないか。
比べてみましょう。写真とボタンと文章が効くのは、お客様が買おうかなと思うまでの部分です。入力欄の数が効くのは、買おうと思ったあとの部分です。
かごには入っているのに注文にならない、という状態は、前半は通過できているという意味なんですね。通過できている場所を磨いても、消えている場所は塞がりません。だから先に触るのは、後半のほうです。
入力欄、思い切って半分に減らしたほうがいいですよ!とにかく増やさない、凝らない。アンケートも、任意の項目も、注文が終わったあとに回してしまえばいいんです。
それだけで、かごに入れたまま消えるお客様は減ります。ゼロにはなりません。比較検討中の人は、どのみち一度離れますから。それでも、指が止まって冷めただけの人は、確実に一定数残ります。
手数料は取られます。それでも入れました
決済のしくみを借りれば、手数料はかかります。これは避けられません。売れるたびに引かれていくわけですから、痛いです。利益率をぎりぎりで組んでいる商売なら、なおさら重たく感じますよね。
なので、比べる相手をはっきりさせておきます。手数料を払って注文が成立した場合と、手数料を払わずに買い物かごの前でお客様が消えた場合。この二つを並べます。
前者は、売上から手数料が引かれます。後者は、売上そのものが立ちません。仕入れも、写真も、ページを作った手間も、そこまで全部かかったうえで、ゼロです。
こう並べると答えは出ます。手数料は、値引きではなく、注文を取り逃さないための経費です。その整理をして、入れることに決めました。
最後に、勢いで買える価格帯を決めました
決済を楽にすると決めたら、もう一つ決めておくことがあります。どの値段の商品を、その導線に乗せるかです。
決めずに全商品を同じ扱いにすると、効果が薄まります。決済の楽さがよく効く価格帯と、あまり関係のない価格帯があるからなんです。
5万、10万は思いつき価格です
5万円とか10万円くらいの商品は、思いつきで買われます。何社も比べて、家族に相談して、一週間考えて、という買い方をされにくい値段なんですね。いいなと思ったその日に決まる。
つまり、この価格帯の売上は、熱が続いている時間の長さで決まります。思いついてから注文が終わるまでが短ければ売れますし、途中に長い入力作業が挟まれば消えます。
そう考えると、この価格帯こそ決済を楽にする効果がいちばん出ます。検討期間が短い商品ほど、途中の手間が致命傷になるからです。
20万くらいまで、勢いで買う人はいます
じゃあ、値段が上がったら関係ない話なのか。そうでもないんです。
20万円くらいまでなら、勢いで買う人が一定数います。全員ではありません。きちんと検討する人のほうが多いでしょう。ただ、その値段でもその場で決める人は、確実にいるんです。
高いからどうせ慎重に検討されるはずだ、と決めつけると、この人たちを取り逃がします。もう決めている人にまで、長い入力作業を踏ませることになるからですね。
検討する人のためには、情報を厚くしておく。決めている人のためには、道を短くしておく。この両方をやっておけば、どちらのお客様も逃がしません。
決済のしやすさで、売上は左右されます
3つ並べると、こうなります。
- 大手モールには出さない
- そのモールの決済のしくみだけを借りて、住所を入力させない
- 勢いで買える価格帯を、その導線に乗せる
やったことは、売り場を増やすことでも、見た目を良くすることでもありません。お客様の指が止まる場所を、一つずつ取り除いただけです。
決済のしやすさで、売上は本当に左右されます。決済は買うと決めた人の事務手続きだと思われがちですが、実際には、まだ迷っている人をこちら側に残せるかどうかの分かれ目なんですね。だから、注文が伸びないときに見るのは、見た目より先に手続きの長さです。
自社サイトを見直すとき、増やす方向で考えると、やることは無限に出てきます。写真も、記事も、SNSも、新しい売り場も、いくらでもありますからね。減らす方向で考えると、やることは有限です。入力欄の数は数えられますし、減らした結果もその場で見えます。
先に減らして、それから増やす。うちがやっているのも、いつもこの順番です。
